BtoB企業のX運用では、何を投稿すればいいのか。

新機能のリリース、導入事例、ウェビナーの告知。発信できる情報はあっても、ポストが自社のお知らせばかりになってしまう。かといって、流行りのネタや記念日に参加しても、事業につながるのかわからない。企業向けのソフトウェアやサービスを提供する会社にとって、身近な悩みではないでしょうか。

食品や小売と違い、BtoB・SaaS企業の商品は、写真を見ただけで価値が伝わるとは限りません。機能を理解するには業務の知識が必要で、購入までに複数の関係者が関わることもあります。だからこそ、Xをお知らせの掲示板としてではなく、顧客との関係をつくる場所として考える必要があります。

この記事では、freee、SmartHR、サイボウズの3社が公開しているアカウントの構成や運用の方針をもとに、BtoB・SaaS企業のX運用を5つの企画パターンに整理します。各社のポストの反応を比べたものではなく、公開情報から読み取れる考え方と、Relensによる企画の提案です。

BtoB企業のX運用は、なぜ難しいのか

まず、BtoC企業との違いを押さえておきましょう。

1. 商品の価値が一目で伝わりにくい

新しいお菓子なら、写真を見て「おいしそう」と感じてもらえるかもしれません。一方、人事労務システムや会計ソフトの機能改善は、その背景にある業務の困りごとを知らなければ価値が伝わりません。「新機能を公開しました」と投稿するだけでは、まだその課題に気づいていない人には届きにくいでしょう。

2. フォロワーと購入者が一致するとは限らない

企業向けのサービスでは、毎日製品を使う担当者と、予算を管理する人、導入を決める人が違うことがあります。Xでポストを見ている人が、そのまま決裁者とは限りません。ポストがすぐに問い合わせにつながらなくても、担当者の理解や、企業への信頼をつくる役に立っている可能性があります。

3. 顧客の関心は、商品よりも業務の課題にある

人事の担当者が毎日考えているのは、人事労務システムのことだけではありません。採用、従業員への対応、法改正、業務の効率化、組織づくりなど、さまざまな課題を抱えています。会計ソフトなら、経理の効率化だけでなく、資金繰りや経営の判断も関心ごとです。自社の機能だけを紹介していると、こうした日々の関心から離れてしまいます。

そこで考えたいのが、商品を中心にポストをつくるのではなく、顧客が毎日向き合っている仕事を起点にすることです。

Model

企業が伝えたいこと
「新機能をリリースしました」(機能名・仕様・リリース情報)
顧客が知りたいこと
「面倒な業務を減らしたい」(課題・工夫・具体的な解決方法)
Xで届けるコンテンツ
「入退社のときのアカウント管理、どう効率化する?」(課題の共有 → 解決のヒント → 製品への関心)

製品の機能の情報を、顧客の課題を軸に、理解しやすく使いやすい情報へ編集し直す、という考え方です。

freee:顧客やテーマに合わせて発信の入口を分ける

freeeの公式SNSアカウント一覧(新しいタブで開きます)を見ると、コーポレートのアカウントだけでなく、プロダクトや対象者ごとのXアカウントが並んでいます。たとえば、次のようなアカウントです。

  • 【公式】freee(@freee_jp)
  • 【公式】freee Developers(@freeeDevelopers)
  • 【公式】freee個人事業主向け(@freee_kojin)
  • 【公式】freee採用チーム(@freee_saiyo)
  • 【公式】freee 会計アドバイザー向けページ(@freeeadvisor)

この構成から読み取れるのは、ひとつの企業でも、接点を持ちたい相手によって関心が違うということです。個人事業主なら、確定申告や日々の経理が関心の中心でしょう。開発者なら、APIや技術的な取り組みに関心があると考えられます。採用に関心がある人には、機能の説明より、働く環境や社員の考え方のほうが大切かもしれません。

X運用への示唆:全員に同じ情報を届けようとしない

参考にしたいのは、複数のアカウントを作ること自体ではありません。小さな企業がたくさんのアカウントを運営すると、投稿を続けることも管理することも難しくなります。ひとつのアカウントでも、読む人の関心を分けて整理することはできます。たとえば会計SaaSなら、次のように分けられます。

  • 経営者向け:経営の数字や資金繰りの考え方
  • 経理担当者向け:毎日の業務の効率化
  • 税理士向け:顧問先の支援や制度への対応
  • 今使っているユーザー向け:便利な使い方や機能の更新

アカウントの数ではなく、「誰の、どの仕事に役立つ情報か」をはっきりさせること。それがfreeeのアカウント構成から学べるポイントです。

SmartHR:専門知識を届け続けるための運用ルール

SmartHRは、デザインシステムのXアカウント(@SHRDesignSystem)について、X運用ガイドライン(新しいタブで開きます)を公開しています。

このガイドラインでは、「SmartHR」「デザイン」「デザインシステム」に興味がある人にフォローされている前提で、フォロワーにとってプラスになる情報を投稿する方針が書かれています。投稿の例は、リリース情報、SmartHR Design Systemに関する情報、SmartHRのデザインに関する情報やコメントなどです。ほかにも、投稿する時間帯(業務時間内、前回の投稿から1時間以上空ける)、文体(運用メンバー個人ではなく「SmartHR Design Systemの運用メンバー」という1つの人格で発信する)、画像の代替テキストの書き方、リプライが来たときの対応まで決められています。

更新情報を流すだけでなく、誰に向けて、どんな言葉で発信するのかまで決めているのが特徴です。

専門的な情報でも、読む理由がはっきりしていればコンテンツになる

デザインシステムは、Xを使うすべての人が関心を持つテーマではありません。それでも、UIデザイナーやエンジニア、デザインシステムの運用担当者にとっては、仕事に直接役立つ情報です。幅広い人の反応を狙うのではなく、専門領域に関心がある人へ情報を届け続ける、という考え方が見えてきます。

BtoB企業は、必ずしも大きな話題をつくる必要はありません。自社が持っている専門知識を整理し、それを必要としている人に届けることも、X運用の役割です。

X運用への示唆:専門知識を共有できる形にする

たとえば人事労務SaaSなら、次のようなポストが考えられます。

  • 年末調整で担当者が迷いやすい3つのポイント
  • 入社手続きで確認したい情報のチェックリスト
  • 人事データを管理するときの注意点

どれも、商品を直接紹介しなくても成り立つテーマです。ポストをきっかけに業務の疑問が解決すれば、企業の専門性を知ってもらう接点になります。ただし、こうしたポストは正確さが何より大切です。制度や法律に関わる内容は、一次情報や専門家の確認が欠かせません。

サイボウズ:製品以外のテーマでも読者との関係をつくる

サイボウズのソーシャルメディアの一覧(新しいタブで開きます)には、企業の公式アカウント(@cybozu)のほか、kintone(@cybozu_kintone)やGaroon(@cybozu_garoon)などの製品のアカウント、サイボウズ式 編集部(@cybozushiki)のアカウントが載っています。

サイボウズ式編集部は、2020年4月にXアカウントを開設したとき、新着記事や過去記事のほか、特集企画のお知らせ、YouTubeの企画、書籍の新刊情報、イベントの告知などを発信すると紹介しています(サイボウズ式編集部 公式Twitter開設のお知らせ(新しいタブで開きます))。

製品の機能だけでなく、仕事への考え方を共有する

サイボウズ式は、働き方や組織、チームワークをテーマにしたメディアです。こうしたテーマはグループウェアや業務改善のツールと関係がありますが、製品の機能紹介ではありません。読む人は、記事を通じてチームで働くことや組織のあり方を考えられます。企業から見ると、製品を紹介する前の段階から、事業に関係するテーマで読者との接点を持つ方法といえます。

X運用への示唆:自社が向き合う課題をコンテンツにする

たとえば営業支援SaaSなら、次のようなテーマが考えられます。

  • 営業の情報が属人化するのはなぜか
  • 商談の記録は誰のために残すのか
  • 営業とマーケティングが分断される理由

どれも製品の説明ではありませんが、その製品が解決しようとしている課題に関心を持つ人との接点になります。BtoB企業の専門知識は、販売資料としてだけでなく、顧客が自分の仕事を考えるためのコンテンツにもなります。

3社のアプローチを比べる

3社の公開情報からは、それぞれ違う特徴が見えてきます。

企業公開情報から確認できる特徴企画への示唆
freee顧客・製品・目的ごとに、複数の公式アカウントがある誰に届けるかをはっきりさせる
SmartHR専門テーマのアカウントに、X運用ガイドラインを公開している専門知識と、運用の一貫性を大切にする
サイボウズ製品の公式アカウントと、編集メディアのアカウントが並んでいる製品のまわりにある課題をテーマにする

これは公開されている運用の体制や方針を比べたもので、各社のすべてのポストを分析したものではありません。成果や優劣を示すものでもありません。

BtoB・SaaS企業で使える5つのX企画パターン

ここからは、3社の考え方を参考にした、BtoB・SaaS企業のX企画の提案です。

Patterns

  1. 01業務課題の解説

    内容

    顧客の困りごとと、解決のヒント

    目的

    新しい接点をつくる

  2. 02顧客の変化の紹介

    内容

    導入前の課題と、導入後の変化

    目的

    信頼と、具体的な理解

  3. 03製品アップデート

    内容

    新しい機能で変わる業務や操作

    目的

    理解と活用を進める

  4. 04社員の専門知識

    内容

    現場で得た経験やノウハウ

    目的

    専門性への信頼

  5. 05イベント・調査

    内容

    議論や発見を、続けて共有する

    目的

    続いていく関係

目的に合わせてパターンを組み合わせます。すべてを同じ割合で発信する必要はありません。

01|業務課題を解説する

顧客が毎日抱えている疑問を、短い解説や図で伝えるポストです。たとえば人事SaaSなら「入退社の手続きで確認しておきたいこと」。自社の製品をまだ知らない人にも届く可能性があり、専門性を知ってもらう入口になります。

業務の課題を必要以上に難しく説明しないことが大切です。ひとつのポストで扱うテーマを絞り、必要なら詳しい記事へ案内します。

02|顧客の変化を紹介する

導入事例を紹介するときは、企業名や製品名だけでなく、導入前に何に困っていたのか、導入後に何が変わったのかを整理します。

freeeが公開しているコシダカホールディングスの導入事例(新しいタブで開きます)では、月末月初にSaaSのアカウントの発行・削除に追われていた状態から、freee IT管理の自動化の機能で入社・退職のときの作業を減らし、1名で運用できるようになった流れが紹介されています。「何に困っていたか」→「どう変わったか」の流れがあると、同じ課題を抱える企業が、自社との共通点を見つけやすくなります。

なお、この事例がXでどう投稿されたかは確認していません。ここで紹介しているのは、導入事例をXのポストに編集し直す方法の提案です。

03|製品アップデートを課題から伝える

機能の更新を伝えるポストでは、機能名を先頭に置くのではなく、ユーザーが何をできるようになるかを伝えます。たとえば「新しいアカウント管理機能を追加しました」という情報を、「入退社のときのアカウント管理を、もっと少ない操作で進めたい担当者へ」という切り口で紹介する方法です。機能そのものより、業務の変化を先に伝えます。

ただし、機能の効果を言い切る場合は、実際の製品仕様や検証の結果に基づいている必要があります。

04|社員の専門知識を発信する

企業の知識は、公式サイトやホワイトペーパーの中だけにあるわけではありません。開発者、カスタマーサクセス、営業、コンサルタントなど、毎日顧客の課題に向き合っている社員の中にもたまっています。

  • カスタマーサクセスの担当者がよく聞かれる質問
  • 開発チームがUIを設計するときの判断の基準
  • 導入のときに見落とされやすい確認事項

社員の個性を前に出すことが目的ではありません。社内にたまった知見を、顧客が使える形に編集することが大切です。

05|イベントや調査を続けて発信する

ウェビナーや展示会の告知も、1回のポストで終わらせる必要はありません。たとえば人事向けのウェビナーなら、次のように分けられます。

  • 開催前:なぜ今、そのテーマが問題になっているのか
  • 開催当日:講演で紹介された大事な考え方
  • 開催後:実務で使えるポイントを3つに整理

申し込みを増やすだけでなく、参加できなかった人にとっても価値のあるコンテンツを残せます。

投稿の配分はどう決める?

5つのパターンを同じ割合で発信する必要はありません。新しい見込み顧客との接点を増やしたいなら、業務課題の解説や専門知識の発信を中心にする方法が考えられます。今使っているユーザーの活用を進めたいなら、製品のアップデートや使い方の紹介を増やすほうが目的に合うでしょう。

一例として、週5回投稿する場合は、次のような構成が考えられます。

曜日企画主な目的
月業務課題の解説新しい接点
火顧客事例の紹介信頼をつくる
水製品の使い方今使っている顧客の支援
木社員の専門知識専門性を知ってもらう
金イベント・記事の紹介続いていく関係づくり

これは効果を実証した比率ではなく、運用を始めるための仮説です。ポストの制作にかかる工数や、読む人の反応を見ながら調整しましょう。

BtoB・SaaS企業のX運用は何をKPIにする?

X運用の成果を、フォロワー数やいいね数だけで判断するのは避けたいところです。業務課題を解説するポストと、ウェビナーの申し込みを促すポストでは、期待する行動が違うからです。大きく分けると、次の3つの段階で見ます。

KPI

  1. Stage 01

    認知・接触 対象の人に届いているか。表示数やプロフィールへのアクセスが参考になる。ただし、表示数だけでは、見た人がターゲット企業の担当者かどうかはわからない

  2. Stage 02

    関心・理解 内容に興味を持ってもらえたか。リンクのクリック、詳しい記事の閲覧、返信の内容を組み合わせて見る

  3. Stage 03

    事業への貢献 Xからサイトに来た人が、資料を読んだり、ウェビナーに申し込んだり、問い合わせたりしたか

この3つは、必ず順番に進むとは限りません。BtoBの購買にはX以外の接点もたくさんあるので、Xからの直接のコンバージョンだけで運用の価値を評価するには限界があります。ポストごとの指標だけでなく、企業として何のためにXを運用しているのかをはっきりさせておきましょう。指標の決め方は、企業公式XのKPI設計で詳しく解説しています。

Knowledge企業公式XのKPI設計目的別の指標の選び方と、エンゲージメント率の「目安」の考え方

BtoB企業が避けたい3つの運用

自社のお知らせだけを投稿する

新機能、導入事例、ウェビナー、プレスリリース。どれも必要な情報ですが、そのまま転載するだけでは、まだサービスを知らない人にとって読む理由が弱いことがあります。更新情報の背景にある、顧客の課題を伝えましょう。

業務と関係の薄い話題に無理に参加する

BtoC企業のように、記念日や流行りの話題に参加しなければいけないわけではありません。業務と関係のないポストで反応を集めても、事業に関係する認知や信頼につながるとは限らないからです。一方で、働き方や業務の悩みなど、自社と自然な接点があるテーマなら、時事的な話題を取り入れることもできます。

投稿数だけを目標にする

毎日投稿することを目標にすると、投稿するために話題を探す状態になりがちです。投稿の量とあわせて、誰にどんな情報を届けられたのかを振り返ることが大切です。無理に頻度を上げるより、続けられる体制と質を優先したほうがよい場合もあります。

業種ごとの運用の違いは、飲食チェーンのX運用とあわせて読むと比べやすくなります。

Industries飲食チェーンのX運用新メニュー告知を「話題」に変える7つの投稿パターンと成功事例

まとめ|BtoBのX運用は、顧客の仕事から企画を考える

freee、SmartHR、サイボウズの公開情報からは、それぞれ違うアプローチが見えてきました。freeeは、対象者や用途ごとに発信するアカウントを分けています。SmartHRのデザインシステムは、専門領域に関心を持つ人に情報を届け続けるための運用ルールを公開しています。サイボウズは、製品のアカウントだけでなく、働き方や組織をテーマにした編集メディアのアカウントを運営しています。

共通して考えたいのは、企業が伝えたい情報と、読む人が知りたい情報をどう結びつけるかです。BtoB企業のXは、商品を宣伝する場所としてだけでなく、顧客が毎日向き合っている仕事について、役立つ知識や新しい視点を共有する場所にもできます。「今日、何を告知するか」ではなく、「顧客のどんな仕事を前に進められるか」から投稿を考えてみてください。

よくある質問

BtoB企業はXで何を投稿すればいいですか?

自社のお知らせだけでなく、顧客が毎日向き合っている業務の課題を起点に考えます。この記事では、業務課題の解説、顧客の変化の紹介、製品アップデート、社員の専門知識、イベント・調査の5つのパターンを紹介しています。

BtoB企業は記念日や流行りの話題に参加したほうがいいですか?

必ずしも参加する必要はありません。業務と関係のない話題で反応を集めても、事業に関係する認知や信頼につながるとは限らないからです。働き方や業務の悩みなど、自社と自然な接点があるテーマなら取り入れられます。

BtoB企業のX運用の成果は何で測ればいいですか?

認知・接触(表示数、プロフィールへのアクセス)、関心・理解(リンクのクリック、記事の閲覧、返信の内容)、事業への貢献(資料の閲覧、申し込み、問い合わせ)の3つの段階に分けて見ます。BtoBの購買にはX以外の接点も多いので、Xからの直接のコンバージョンだけで評価しないようにしましょう。